Haruyoshi Nagae

秋日

凪いだ風は遥か遠くのススキまで揺らそうという頃、私は黄金の幻影を間近に見た。そのゆらめきは有機的、生き物であるのには違いないのだが、すでに還ったように静かにさざめくのだった。

柔らかな触り心地を夢想する、増えるための眼差しを見なかったことにして、秋という概念を肌身に受け止めた。とても重い。

日の入りに伴い肌寒くなる、秋はこれがあるからいけない。どうしようもないほどの冬の予感が辺りを支配する。すっかり忘れていた空腹を思い出すのが億劫で、夕日を背に足を進め始めたのだった。

生き遅れた蜻蛉が寒くて縮こまっている。もう飛べないのだろうと思いながらそっと土のあるところに追いやる。明日にはもういないだろう、すこし憂鬱が顔を出したが押し込めた。虫は還る場所があっていいなと思う。

ポケットで手を温めながら、染まる景色を浴びている。夕日の威圧感に耐え切れる気がしなくてすこし足速に、群青色になってきた空に救いを見出しながら。小さな部屋があるだけでこうも安心するのもかと不思議に思い、カーテンを閉めたのだった。