溶けたように見えた君の髪が透明な赤、あるいは押し寄せる波のように輝く。なぜか無重力になびき、地に足のつかない軽やかな動きで私の目を回すのだ。
君に触れたこともなければ口を聞いたこともない、君は不気味なほど微笑むばかりでその胸中を探らせてもらえることはついぞなかった。
明後日の雷、週明けのさざなみ、どこからともなく現れて私を弄ぶ彼女、水平線を見据えて笑う。言葉を交わせば小さなゆらめきが終わってしまうような気さえした。それくらい繊細な心のつながりだったはず。
学校帰りに寄り道すると彼女はこちらに手を振り、少し浮き足だった時間がやってくる。美しいものを目にすると、人はどうして何も言えなくなるのだろう。キュッとして手の痺れるような感覚を密かに抱きながら、透けた赤を目で追った。
彼女がパタリと現れなくなって半年、気持ちに起伏のない冬を過ごしまた夏が、彼女は再び現れた。赤い髪に青を靡かせて、目を細くして微笑みかけてくる。病的な青白さは夏に似合わない色ではあったが、彼女の歩く場所は冷え冷え、私の足元は猛暑、どう考えたって距離がある。私は見えないものを追っているような気がしていた。
変幻自在の髪の色、不思議と君なら当然のことのような気がして、赤くなった空と海に黄金色を溶かすように風が髪を攫う。そのまま消えてしまう気がした、手も触れられないのに止める術もなく、目を離した隙にふらりといなくなる。いつもこのときのやりようのない気持ちをぶつける先を見つけたくて、帰ると君の髪の色を塗りたくっていた。
君がいなくなる日、私は休日だというのに少しの期待で海に向かった。見られたくないように、珍しく悲しげな彼女は初めて私の手を取り目を瞑って下を向く。あまりにも幽霊めいた体温に、足の先から血の気が引く感覚が、彼女は私に背を向けて、音も立てずに海へと足をすすめるのだった。どうして止められなかったのか、君が海に沈んでゆくのがとても自然なことのように思えて、さよならを告げる間も無く君は姿を見せなくなった。
今覚えているのはいつもふわふわと手が痺れる感覚ばかり、微笑んでいた君の顔も思い出せず、大量の色を塗った紙だけが手元にある。それを忘れないでいようと思った。